2017年02月02日

ブログを引っ越しました。

ブログを引っ越しましたので、お知らせします。

こちらです⇒美しい言葉

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2005年08月14日

藤原伊織「テロリストのパラソル」

1995年作。ハーボイルド・サスペンス。格好いい人間を描くこと、しかも現代を舞台にして描き切ることの困難さを思い知った。
作者の力量が並々ならぬものであることは間違いない。

(優れた点)
●文体を自分のものにしている。
●構成が緻密である。
●会話にヒネリがあって、成熟感を覚えさせる。
●登場人物のバックストーリーを含めての造形に厚みがあって、存在感を感じさせる。
●全体のトーンに統一感があって心地よい。
●20章で構成されていることに注目。全体が約600枚だから、一章の・さがほどよいのである。
●視点が安定している。
●「私」の語りが、形村として決まっている。視点と人称の設定は成功。
●全体としての情報量もほどよい。爆弾、テロ、全共闘時代、警察の捜査方法など、専門知識によって、細部の書き込みで、リアリティーを高めている。
●書き出しの爆弾事件の出し方は巧い。強烈な謎の提示。
●エンディング。意外な犯人。桑野というかつての親友の変貌ぶり。
●新宿中央公園という場所の設定はいい。東京の心臓部のオアシスである。
(気になった点)
〇人間関係が入り組んでいる。その複雑さが魅力につながっていない。読者の推理力を刺激し、ゾクゾクさせるだけの力はない。
〇もっと内容をシンプルにし、会話よりもアクションシーンを増やした方がいいのではないか。
〇最後は親友・桑野の告白(種明かし・説明)と自殺で終わるのだが、おおっ!とい驚きはない。この結末は誰にも推理できないし、種明かしされたところで感動はない。親友が親友でなくなっていた、堕落していたでは、人は感動させられない。
〇ハードボイルドというジャンルの目的の一つに格好いい男を描くことがあると思う。ここに出てくる男たちは格好いいだろうか。背骨を持った男だろうか。
最近「カムイ伝」を読んでいるが、登場人物、非人も下人も侍も、みな格好よく描かれている。本当のカッコヨサというものは深い。今の私には「カムイ伝」こそ真のハードボイルドのように思われてならない。
〇テーマは男の美学だろうか。東大の全共闘くずれのバーテンダー、それも71年事件を引きずっている男。・に魅力を感じるかどうかだ。昔の・人、その娘、かつての親友、昔の三角関係など人物配置も計算されて破綻はないが、必然性は弱い。人間の本当の生活感みたいなものは、この作品からは感じられないというか、希薄である。人物を減らし、ストーリーはもっと単純にした方が、強くなるだろう。
〇主人公の捜査の仕方だが、もっと権謀術策にたけたキレが欲しい。危機の逃れ方、相手の裏を書くとか、アクションにも工夫が欲しい。対立関係を強くして、戦いながら捜査させた方が迫力が出るだろう。
〇キザだとか、薄っぺらだと思われた時、そのハードボイルドは終わる。作者の人生観が問われるのである。
〇最後の種明かし、説明を犯人にさせては興ざめだ。読者にとっては身も蓋もない。
〇主人公を窮地に陥れ、間一髪で逃れてゆくという方がいい。
〇時間の処理がダラダラしている。タイムリミットを決めた方がいいかもしれない。
〇端的に言うと、ストーリーが今ひとつ面白くないのである。ハリウッド映画を小粒にした小説と言われても仕方がないだろう。巧さ、計算高さ、如才なさ、ミスの少なさはさすがだが、それを超えて迫ってくるものがない。要求がきつすぎるだろうか。

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2005年08月13日

ウィリアム・アイリッシュ「裏窓」

1942年作。本格推理ではない、サスペンスだ。魅力を以下、列挙してみたい。
@舞台設定の巧さ。裏窓から見ている動けない男の推理という設定が面白い。
A対象とのほどよい距離が心地よい。
B語り口のゆとり。まんま語らない。ユーモア、アイロニーを混ぜる。
C人間を見る眼の独自性。風刺的に見る。突き放して見る。哀愁がある。
Dキーワードは「遅延反応」。
E小道具は「望遠鏡」。
F会話の巧みさ。
G音の効果は「コオロギ」。
H大きな竪型トランクは読者へのエサ蒔き。
I主人公が動けない訳を最後に明かす。
Jストーリー展開が巧み。読者をハラハラさせるテクニックは抜群。
Kサムと友人の刑事の使い方がいい。無駄がなく、物語としての完成度を高めている。つまり、脇役の使い方が巧いのである。

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2005年07月22日

エドガー・アラン・ポー「モルグ街の殺人事件」

エドガー・アラン・ポー作の「モルグ街の殺人事件」、この小説からミステリーは始まったと言われているらしい。

モルグ街の殺人事件

奇怪な事件が起きる。謎だらけだ。その謎を登場人物が推理し、謎を解明する。謎の提示とその解明、これがミステリーの原形なのだ。
犯行したものがオランウータンだけに、動機はない。だから、被害者などの人生的なドラマもない。
こういう答えは、おうおうにして空しい。
読者に犯行に関するデータをすべて見せていないので、アンフェアであり、確立された推理小説の形態とは一線を画するものと言われているのだそうだ。
この小説が極めて理知的に語られており、主題が人間ドラマにあるのではなく、知的ゲームにあることには注目すべきだ。
推理小説はパズルとかゲームの側面を持つことは当然である。
しかし、それが小説のテーマとなる場合は、人間の本能とか業とかいうものは、ゲームを盛り上げるための道具にすぎなくなる。
犯人探しや、トリックだけでは、もう読者は満足しない。
現代においては、文学の香気、人間ドラマ、時代へのメッセージなどがなければ、魅力的なミステリーは成立しない気がする。



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2005年07月20日

鈴木光司「リング」

作者:鈴木光司
1989年作。

リング

[読後の素直な感想]
読後、奇妙な感覚にとらわれた。今までそれほどたくさんの小説を読んだわけではないが、初めて襲われる奇怪な感じだった。
乗り物にのせられてラストまで一気に運ばれてしまった、そんな錯覚をおぼえた。
映画でジェットコースター・ムービーという言葉が盛んに使われたのは、いつ頃だったろうか。小説でも、これに類した言葉があるのだろうかと考えた。
「リング」を批判しているのではない。間違いなく絶賛しているのだ。
この小説は人力車ではない。ターボエンジンが搭載された当時としては正に新型モデルのノベルだったのだ。
何が言いたいのか。日本の小説もここまで来てしまったという思い。
ハリウッド映画にあるような、これでもかという過度のエンタテイメント性が横溢し、小説そのものが見たこともない化物じみたエナジーを持ってしまった。
譬えが古すぎるが、コジラのような小説? いや、違う。これはメカ・コジラなのだ。あざとさも、ここまで到達すれば、天晴れとしか言いようがない。
古い化石となってしまうはずだった小説のみすぼらしさはここにはない。
小説の原始力に代わって、もっと別の何かが小説という形式を飲み込んでしまったような不気味ささえ感じられる。
この小説から受ける感覚は健康的ではない。
シャブを打たれているみたいな暴力的な陶酔がある。
確かに文句なく面白いが、本当にこれでいいのだろうか。宗教、モラル、美学、ポリシーが崩壊された国だからこそ繁殖し得たブーム小説だったのではないだろうか。

以下は分析。

[設定]
■場所:東京、伊豆大島、箱根。
■時間:9/5〜10/21まで。
■人物
人数、キャラ設定ともにバランスが取れている。特に竜司の存在と貞子の周辺人物の配置は絶妙。
■視点:作者視点(三人称客観視点)。完全には統御されていない。
■人称:三人称。
■文体:読みやすい。読ませどころではテンションを上げる、書きこむ。文章表現力はミステリーとしては水準以上。
■ジャンル:ホラー。謎解きの要素を多数入れ込んでいる。
■情況1:もし20年以上も前に死んだ両性具有の超能力少女の怨念が殺意を込めた念写ビデオを生み出し、実際に人を殺してしまったとしたら〜
■情況2:それをを見た者は1週間以内に死ぬという殺人予告ビデオを主人公が見てしまい、それを逃れる方法が示されるシーンだけが消されてしまっていたら〜

[チェックポイント]
エエイ! 面倒だから、ついでだから、この小説を元にミステリーに採用すべき方法論を整理してしまおう。
アイデア勝負の作家。著者は小説家というより、アイデアマンであり、プランナーである。
だから設定、つまり設計図の引き方も巧い。
少し、ここで活かされているアイデアと設定の妙をピックアップしてみよう。
●殺人予告ビデオ(見たものは1週間以内に死ぬ)
●強姦殺人された超能力少女は両性具有
●毒消しの方法は消されていた
●謎のビデオの分析・推理方法の中の「まばたき」
●念写⇒念像
●タイムリミットの設定。サスペンスのフォーマットの確立。
謎の提示。ビデオに映されている映像を分析・捜査・推理する、オマジナイ探し「毒消しゲーム」。章の頭に日付を入れる手法。タイミリミット・ホラーだけに有効。
●ホラー・サスペンス・ミステリーのミックス。いわゆる無節操な丼(ごった煮)形式。
●方言(砂の器)、予知能力(デッド・ゾーン)、古井戸(ドロレス)など、他作品から部品を寄せ集めて作品の世界を構築する。
●ノンストップ・アクション、ジェットコースター・ムービーの手法を取り入れる。何でもかんでも入れられるものは全部入れてしまう。⇒でも、全体としてのよくまとまっている。消化不良という感じは受けない。ヒットする曲は寄せ集めというが、それは真理かも。
●伊豆大島、箱根を舞台とすることでロード・ノベルの要素も入れる。
●エンディングの工夫。ドラマはまだ終わっていなかった式の導入。ハリウッド映画のテクニックもなりふり構わずに投入。
●竜司というバディの設定。イケイケドンドンの性格で大学の講師。最後に死ぬ。奇妙な友情も描く。
●主人公のごく普通の家庭。愛妻と一人娘の存在を効果的に使う。
●当時、普及がめざましかった旬なメディアであった“ビデオ”という媒体の可能性を最大限に引き出し、活用している。
●映画的、漫画的なテーマとディテールの、鮮明で大袈裟なデフォルメの仕方は、大衆の感覚をキャッチした。

[欠点]
○視点の統括が不完全。
○表現力が未成熟。稚拙な所がある。
○なぜ残された時間は1週間なのかが書かれていない。
○貞子を殺した医師の自白があっけない。吐かせるための手続き、工夫が欲しい。



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posted by オグ at 23:03| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(1) | 広義のミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

貴志祐介「黒い家」

ホラーだから仕方がないのかもしれないが、後味の悪い作品だった。
実にサービス精神の旺盛な小説である。
丁寧な伏線の張り方。小道具の使い方。夢のシーンの多様。専門知識の有効利用。クライマックスでのサスペンスの演出など、すべて高い水準をキープしているように思う。
というか日本の新しいエンタテイメントの中では、極めて秀逸な出来栄えと言えるのではないだろうか。
ただ犯人の住む黒い家の床下から白骨死体が多数出てくるという設定には首を傾けざるを得ない。そこまですると話が嘘っぽくなるし、そんなことはなくても充分に恐い話は出来あがっているのである。
バラエティーショー的なサービス精神が、逆に作品を豊かにするより、安っぽくしている気がしてならない。
社会問題ふうの論述が多数あるが、それも大幅にカットするべきだろう。
複数の登場人物に違う意見を述べさせているが、問題をあやふやにさせているだけである。
問題そのものに対する、作者の自己処理の詰めが甘いと批難されてもいたしかたないのではないだろうか。簡単に言うと、薄っぺらなことを喋りすぎているのだ。
傑作と言われるための、シャープネスと品格に欠けるのが惜しまれる。
人間の魂の叫びとかいうものを、もっと深く、濃密に描いてもらいたいと思う。
ともあれ、エンタテイメントとしての必要なエレメントを多数かねそらえた秀作であることには違いない。

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posted by オグ at 06:44| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 広義のミステリ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

宮部みゆき「とり残されて」

設定の上手さと着想の面白さが際立っている。
要するに状況設定の卓抜さである。
もし殺意を抱いた「わたし」が、二十年前に物入に閉じ込められて「取り残された」少年の魂を呼び起こしたら〜。
文体は簡潔で無駄がなく、それでいて直に人の心の琴線に触れてくる鋭さと恐さを有している。
原爆が人の影を石に焼き付けたという話は強烈だった。
魂がその場に残るということの例えである。

宮部みゆきという人は優しさという鋭利な刃物を持った人である。
優しさは、この作家にとって大きな武器である。それは私にとっては脅威である。

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